本邦に於ける動物崇拝(現代語訳2)

本邦に於ける動物崇拝(現代語訳)

  • はじめに
  • 海豚
  • 鶺鴒
  • 野槌
  • 海亀

  • 猿
    Fieldwork in Arashiyama / yakuzaru

     ○猿は安産な者といって、今は知らないが、20年ばかり前まで、和歌山より大阪へ行く街道側に、猿の土偶をおびただしく祭っている小祠があり、婦人が産が近づくごとにこれに詣で、礼拝してその像を借り受け枕頭に祭り、安産し終われば、同様の猿像ひとつを添えて礼拝して件の祠へ返納した。

     古、猿を神として斎いて、美作(※みまさか:現在の岡山県北東部)の国人は美女を生け贄とし、毎年これを祭っていたが、東国の猟夫が来てこの弊風を止めたことが『宇治拾遺』に見える。

     我が国の猿舞いの基因は、馬のために病いを払いのけたことにあるという説がある。『五雑組』巻九に置狙於馬厩、令馬下疫、西游記謂史天帝封孫行者為□(※□には「弓百弓」)馬温、蓋戯詞也と見え、古くから猿回しが行われたのを、後に支那説よりこじつけたのであろう。1821年、シャムに使節で行ったクローフォードは王の白象の小屋に2匹の猿を飼っているのを見て、象の世話をする人に問うてその象の病難予防のためであることを知ったということを書きつけている。(J. Crowford, 'Jounal on Embassy to the Courts of Siam and Cochinchina,' 1828, p. 97.)

    back next


    「紀州俗伝」は『南方随筆』(沖積舎) に所収。

    Copyright © Mikumano Net. All Rights Reserved.