紀州俗伝(現代語訳3-10)

紀州俗伝(現代語訳)

  • 3-1 師走狐
  • 3-2 狐の仕返し
  • 3-3 ホタル来い
  • 3-4 雀と燕
  • 3-5 今生まれた子限り
  • 3-6 カイコの舎利
  • 3-7 月の8日
  • 3-8 欲深いシャレ
  • 3-9 2つの鐘
  • 3-10 比丘尼剥
  • 4-1 師走狐の鳴き声
  • 4-2 雨乞いの池
  • 4-3 フクロウと天気
  • 4-4 ホタル来い
  • 4-5 鰹鳥
  • 4-6 宵の蜘蛛、朝の蜘蛛
  • 4-7 他人の足の裏
  • 4-8 狐と硫黄
  • 4-9 早口言葉
  • 4-10 狼を山の神と
  • 4-11 女に化けるアナグマ
  • 4-12 葉巻煙草
  • 4-13 一文蛤
  • 4-14 高野山の井戸
  • 4-15 蝸牛の囃し詞
  • 4-16 壁の腰張り
  • 4-17 ムカデとマムシ
  • 4-18 足のしびれを直す方法
  • 4-19 熊野詣の手鞠唄異伝2
  • 4-20 人買い
  • 4-21 ホオズキ
  • 4-22 玄猪
  • 4-23 茶釜の蓋
  • 4-24 コオロギの鳴き声
  • 4-25 トンボ捕り
  • 4-26 そばまきとんぼ
  • 4-27 木偶茶屋
  • 4-28 七つ七里
  • 4-29 油虫

  • 3-10 比丘尼剥

     

    鐘
    一枚岩 / み熊野ねっと

     日高郡龍神村大字龍神は古来温泉で著名だが、その地に本誌巻1、117ページに載った徳島県の濁が淵同様の話がある。ただし所の者はこれを隠して言わない。

    昔、熊野詣りの比丘尼が1人ここに来て宿ったが、金を多く持っているのを見て主人が見て、徒党を組んで鶏がとまる竹に湯を通し、夜中に鳴かせてもう夜明けが近いとあざむき、尼を出立させて途中で待ち伏せして殺し、その金を奪った。そのとき、尼は怨んで、永劫ここの男が妻に先立って死ぬようにと呪って絶命した。そこを比丘尼剥という。

    その後、果たして龍神の毎家、夫は早死にし、寡婦世帯が通例となって今に到る。その尼のために小祠を立て祀り込んだが、とんと祟りは止まないそうじゃ。

    10年ばかり前に、東牟婁郡高池町から船で有名な、一枚岩を観に行ったとき、古座川を鳶口で筏を引いて、寒い水中を引き歩く辛苦をいたみ問うたところ、この仕事は厳しく体に障り、真砂という所の男子はことごとく50以下で死ぬのが普通であるが、故郷を離れ難くて皆々このように渡世していると答えた。

    龍神に男子の早死にが多いのも、何かそのわけがあることで、比丘尼の呪いのせいではないことはもちろんのことながら、この辺りは昔の熊野街道で、いろいろ土地の者が旅客に不正な仕向けもあったことと思う。第1巻121ページに出した熊野詣りの手鞠唄なども、じつは、新しく髪を結って熊野へ詣る娘を途上で古寺に引き込み、強辱する様子を淫微の裏に述べたものらしい。

    明治8年頃、和歌山の裁縫匠で予の父の持ち家に住んだ者が熊野のある村で、村中の人がことごとく相撲を見に行ったところへ行き合わせ、大石で頭を砕かれ、所持品をことごとく奪われて死んだこともあった。

    西鶴の本朝二十不幸巻2「旅行の暮の僧にて候、熊野に娘優しき草屋」の1章など、小説ながら拠り所があったのだろう。序に言う、龍神辺りの笑い話に、ある寡婦多分現存の人だが夏の日、○を門外で乾かし、自分の部屋で退屈のあまり単独秘戯を弄していたところ、急ににわか雨がやってきて、○が流れるとの児童の叫び声に驚き、角先生(ガウデ・ミン)(※?※)を足に結び付けたまま走り出したのを見て、この暑いのに主婦は足袋を履いていると、児童一同はいよいよ叫んだという。

    虚実は知らないが、似た境遇は伝説を生ずるもので、インドでも2000年以上昔にすでにこんなことがあった。唐の義浄訳根本説一切有部芯芻尼毘奈耶巻17に曰く、(中略)、仏はこれを聞いて、尼を波逸底迦罪犯とした。

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    「紀州俗伝」は『南方随筆』(沖積舎) に所収。

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