酉陽雑俎

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  • 酉陽雑俎(ゆうようざっそ)

    唐の段成式(773年〜863)の撰による怪異記事を集録した書物。前集20巻・続集10巻、合わせて全30巻。
    道教や仏教、天文や年中行事、怪奇な事件や事物、風俗、動植物など諸事万般にわたって、異事を記しています。

    現在もっとも入手しやすいのは、平凡社、東洋文庫の『酉陽雑俎』全5巻。



    酉陽雑俎

    南方熊楠の随筆:十二支考 兎に関する民俗と伝説(その7)
    ただし只今いわゆる保護色も古く東西の識者に知れいたは、唐の段成式の『酉陽雑俎ゆうようざっそ』に顛当つちぐも蠅を捉えて巣に入りその蓋を閉じると蓋と地と一色でともに糸隙の尋ぬべきなしと自分の観察を筆し、またおよそ禽獣は必ず物影を蔵匿して物類に同じくす、これを以て蛇色は地を逐い茅兎かやうさぎ(茅の中に住む兎)は必ず赤く鷹の色は樹に随うと概論したはなかなかえらい。

    南方熊楠の随筆:十二支考 田原藤太竜宮入りの話(その2)
    予が明治四十一年六月の『早稲田文学』六二頁に書いた通り、『酉陽雑俎』(蜈蚣むかで退治を承平元年と見てそれより六十八年前に死んだ唐の段成式著わす)三に、歴城県光政寺の磬石けいせき膩光つやしたたるがごとく、たたけば声百里に及ぶ、北斉の時、都内に移し撃たしむるに声出ず、本寺に帰せば声もとのごとし、士人磬神聖にして、光政寺をしたうとうわさしたとある。


    南方熊楠の随筆:十二支考 田原藤太竜宮入りの話(その3)
    名作の物が、真物同然不思議を働く例は、『酉陽雑俎』三に、〈僧一行異術あり、開元中かつて旱す、玄宗雨を祈らしむ、一行いわく、もし一器上竜状あるものを得れば、まさに雨を致すべし、上内庫中において遍ねくこれを視せしむ、皆類せずと言う、数日後、一古鏡の鼻の盤竜を指し、喜びて曰くこれ真竜あり、すなわち持ちて道場に入る、一夕にして雨ふる〉。



    南方熊楠の随筆:十二支考 田原藤太竜宮入りの話(その8)
    酉陽雑俎』に、新羅国の旁※ぼうい[#「施のつくり」、138-7]ちゅう人、山中で怪小児群が持てる金椎子きんのつちが何でも打ち出すを見、盗み帰り、所欲のぞみのもの撃つに随って弁じ、大富となった、しかるにその子孫戯れに狼の糞を打ち出せと求めた故、たちまち雷震して椎子を失うたと見ゆるなど、いずれも俵の底を叩いて、米が出やんだと同じく、心なき器什どうぐも侮らるるといかるてふ訓戒じゃ。


    南方熊楠の随筆:十二支考 蛇に関する民俗と伝説(その12)
    酉陽雑俎』に、蛇つるむを見る人は三年内に死す。ハツリットの『諸信および民俗フェース・エンド・フォークロール』二に、古ローマ人は蛇の動作を見てうらのうた。ロッス説に、水蛇と陸上の蛇の闘いは、人民の不幸を予示すと。アツボットいわく、マセドニア人、首途かどでに蛇を見れば不吉として引き還すと。


    南方熊楠の随筆:十二支考 蛇に関する民俗と伝説(その16)
    酉陽雑俎』の十に、〈蘇都瑟匿国西北に蛇磧あり、南北蛇原五百余里、中間あまねき地に、毒気烟のごとくして飛鳥地に墜つ、蛇因って呑み食う〉、これは地より毒烟上りて、鳥を毒殺するその屍を蛇が食うのか、蛇がそのすなはら一面に群居し、毒気を吐きて鳥をおとし食うのか判らぬ。蛇が物を魅するというは、普通に邪視を以てにらみ詰めると、虫や鳥などが精神恍惚とぼけて逃ぐる能わず、蛇に近づき来り、もしくは蛇に自在に近づかれて、その口に入るをいうので、鰻が蛇に睥まれて、頭を蛇の方へ向けおよぎ、少しも逃げ出す能わなんだ例さえ記されある。

    南方熊楠の随筆:十二支考 蛇に関する民俗と伝説(その18)
    酉陽雑俎十六に、〈蛇に水草木土四種あり〉、水や草叢くさむらに棲む蛇は本邦にもあり。

    南方熊楠の随筆:十二支考 蛇に関する民俗と伝説(その25)
    酉陽雑俎』十五に、
    〈白将軍は、常に曲江において馬を洗う、馬たちまち跳り出で驚き走る、前足に物あり、色白く衣帯のごとし、※(「榮」の「木」に代えて「糸」、第3水準1-90-16)えいじょうそうにわかにこれを解かしむ、血流数升、白これをあやしみ、ついに紙帖中に封じ、衣箱内にかくす、一日客を送りて※(「さんずい+産の旧字」、第4水準2-79-11)水に至る、出して諸客に示す、客曰く、なんぞ水を以てこれを試さざる、白鞭を以て地を築いてあなと成す、虫を中に置き、その上に沃盥よくかんす、少頃しばし蠕々ぜんぜん長きがごとし、竅中きょうちゅう泉湧き、倏忽しゅっこつ自ずからわだかまる、一席のごとく黒気あり香煙のごとし、ただちに簷外えんがいに出で、衆懼れて曰く必ず竜なり、ついに急ぎ帰り、いまだ数里ならずして風雨たちまち至る、大震数声なり〉。


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