神社合祀反対運動の終結、その他(現代語訳1)

神社合祀反対運動の終結、その他(現代語訳)

  • 1 白井博士へ陳謝
  • 2 神社合祀反対運動の集結

  • 白井博士へ陳謝

    高原熊野神社
    近露王子 / み熊野ねっと

     明治44年12月10日午前2時認

       柳田国男

    小生が白井氏へ一書を差し上げ謝ろうと思っても、読んでくれないかもれないので、貴下に寄せて本状の意を伝達してもらいたいのです。

     拝啓。小生が外人に神社の一件を頼むことは、昨今寒気のために思うように手が動かず、筆を操ることも思うようにできず、かれこれ引き伸ばしているうちにいろいろ考えて、到底自分の一分をいささか立てるというような卑劣なことで、実際上の効果が少しもなく、心得違いが起こるととんでもない誤解を引き出し、予想外のことをしでかすかも知れません。

    一方で、2年前に、かの人々のなかで助力を申し来ていたときならばまだしも、今日たとえ長文を送ったところが十分の同情を得ることは難しく、三流四流のさしたることもない野次馬連中の賛成があったとして何の利益もないであろうし、よってディキンズへ申しやることは断然止め申します。

    その概要は、県知事へ通知するように安江という人に頼んでいたが、この人はただ今、県会書記長でそんな暇なく、

    家の弟の常楠という者といたって懇意なので、家の弟は思慮ある者なので、わざと見合わさせていたと思われる

    そのまま握りつぶしていたとのことで、その書は小生の手許へ戻って来ている。右のようなことなので小生が過ちを自ら知って改めたということを、貴下が何とぞ白井博士にご通知し、小生の心得違いの段を謝ってくださいませ。

    英米の学者が小生に海外で苦情を出せと勧めに来たことは幾度とある。しかしながら、従来、小生は貴下らと同様の考えを持ち、これをそのまま聞き流していたのだ(大阪府の人が、無名で、血判をもって勧めに来たものもある。その状の移しは前日白井氏に差し上げた)。

    ところが、先月下旬、毛利氏に聞くと、前日知事に面会した折、新任知事は、白井、戸川2氏から抗議書が来たのに大不機嫌で、このような抗議を東京の博士連に頼み出させるなどは県政を外から干渉するものである、と言ったという。つまり貴説のように、知事が相当に意地を張り出して来たとのことを聞き、かかる上はやむを得ないと思って、ちょうどディキンズから申し来ていたので、委細のことをそろえて、外人の連署を頼もうと思い立ったのです。

     近野村の神木は本月5日から伐り始めたということを村民が申して来た。その木は田辺の監獄署の囚人操業で家根板を作る原料に用いるだろうとのこと。野長瀬氏はただ今東京にいて、いまだこのことを知らないだろう。また小生の祖先が400年来奉祀して来た日高郡の大山神社(写真2枚、白井氏の手を経て旧藩主侯がご覧になった。旧幕のころは幕府により普請されたものである)も、今月15日、神職取締員が来て整理に着手とのことなので、無論潰されるであろう。

    小生の一族から寄付金でもすれば残存できるであろうが、金銭をこのようなことに入れてはかえって事弊を増長するものなので、小生は貴説のようにこれをやむを得ないことと諦め、

    一切皆帰滅 無有常安者 須弥及海水 却尽亦消□ 世間諸豪強 会必還衰朽

    万世不動と崇められた神さえ無常を免れない。ましてや我輩法蠏父子のような者は、どんな説が通らなくとも世間を歩けないほどの恥辱ではないと大悟し、合祀反対の旗はこれを限り引き下ろし申します。

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    「神社合祀反対運動の終結、その他」『南方熊楠コレクション〈第2巻〉南方民俗学』 (河出文庫)所収。

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